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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第陸話 コメート・ファウストの場合③

「ん…」
ここは、どこでしょうか……。目が覚めると、そこはいつもの茶の間で、お姉様が私のことを見ていました。
「わ、私っ、寝坊してしまいましたか?!」
「そんなねぇ、飛び起きなくてもいいのよ。まだ夜中だしね。昨日のこと、覚えてる?」
お姉様の優しい声に導かれて記憶を辿ります。昨日、昨日……?
しかし、何故だか靄がかかったように思い出せません。
覚えていないのですから、特に何もなかったと思うのですが……。
「そう、無事に覚えていないようね。」
「何のことですか?」
「いやね、昨日家にミーティアの部屋に好きなだけ漏らしていく不審者がやってきて……っておっと、思い出したくないこともあるわよねごめんなさいね」
「え、私の部屋は大丈夫なんですか? ……ッ!?」
私が不安から前のめりになろうとすると、首に慣れない痛みが走りました。
それを見たお姉様は作ったかのように冷静に、
「気付いてしまったわね……その不審者があんたを絞殺しようとして、あんたは失神した。でも、なんとか死なずに済んだのは良かったわ。
ちなみに部屋は無事じゃないから今度から共同部屋ね」
と囁いてきました。
私は紫色のマフラーを渡され、つけるように言われました。
「ははぁなるほど……。でも、畳業者呼べばいいじゃないですか、どちらにせよ畳は捨てないと」
そう言いながら、私はお姉様と同じ部屋に居られることに幸福感を覚えました。
そして私はマフラーを付けることによって逆説的に寒さを思い出します。
「囲炉裏だけじゃ寒いです、火鉢持ってきましょうよお姉様ぁ」
すきま風の多い空き家に住む私達は、どうしても寒さに震えがちです。布団も粗末ですし……新しく買った方がいいのでしょうか。
「ええ、そうね……」
お姉様はわざわざ私の手を取って立ち上がらせてくれました。こんなこと思っては失礼なのは分かりますが、なんだかいつもより対応が手厚いような気がします。
「ふふふ、今日のお姉様はお優しいのですね」
「あんたに優しくしなかったことがあったかしら?」
とぼけないでくださいよ、私は笑いました。お姉様は意地が悪くて、どこか暖かいのがずるいんです。そう言うと、お姉様も一緒になって笑いました。
私は、生きています。幸せなんですね。少し冷えたお姉様の手も、私が生きている確認になります。
囲炉裏で燃えているモノクロの布を見ながら、ふと私はそう感じました。


コメート・ファウストの場合③

2023/02/16 up

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